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三分小説#01|埋もれた情熱

鳴り響くスマホのアラームで目を覚ます。

今日は水曜日。
ああ、今週はまだあと3日も仕事に行かければならない。

仕事がそんなに嫌いかと言われると、もちろん好きではないが取り立てて嫌いというほどでもない。そもそもあと3日乗り越えてやっとのこと休日を迎えたとて、家族もいなければこれと言った趣味もない私にとって、土日はただの仕事がない日に過ぎない。
はたまた幼少期の私なら、画面越しのファンタジーの世界で大冒険をしているうちにたったの24時間なんてあっという間に過ぎるのだろうか。

そんな風につまらない日常をぼやき、刺激を与えてくれる「なにか」を心から欲しつつもその「なにか」を探すためにわざわざ行動を起こす気などさらさらない。我ながら呆れる無気力さだ。

徹底した無気力は情熱の裏返しだとか、そんな言葉があったかなかったかは分からないが、少なくとも自分に当てはまる言葉でないことは分かっている。情熱の記憶なんてもう到底掘り起こせないところに埋もれてしまっているし、もし掘り起こせたとしてもこんなどうしようもない今日と並べてみようなんて思うわけがない。いやな気分になることは、火を見るより明らかだ。

そんなことを頭の片側でぐるぐるぐるぐると考えながら、もう片側の頭で半人前の仕事をしているうちに気づけばもう夕方、やれと言われた仕事は終わったのだしもう帰ってもいいだろう。オフィスのハンガーラックにかけていた魔道士のローブを羽織って会社をあとにする。
そうだそうだ、水曜日は週刊少年マンガ雑誌の発売日だから買ってから帰らないといけない。駅近くのコンビニエンスストアで目当ての漫画雑誌とポーション×2とちょうど切れていたタバコを買って電車に乗り込んだ。

そういえばさっきのお会計がぴったり1000ゴールドだったのだが、小さい頃から私はこういうぴったりの数字になぜかよく出くわすような気がしていてそのたびに1センチくらい気分が上がったものだ、だからどうしたという話だ。

「・・・ており、現在15分遅れで運行しています。お急ぎの皆様には大変ご迷惑をおかけし・・・」

ああ、またか、病人の救護で遅れてるみたいだ。昨日はたしかゴーレムだかイエティだかに衝突したとかだったっけか、とにかく最近よく遅れてる気がする。まあだからといって別にイライラするわけでもないというか、イライラしたところで電車がどうこうなるわけじゃないし15分早く着いたからってやることもないんだから。
遅延に関する情報と8bitのピコピコ音楽が混ざりあう車内放送に気持ち耳を傾けながら私は、窓の外のだんだん薄暗くなっていく景色をぼーっと眺める。

は。
気がつくとここは終点か、否、どうやら洞窟の奥深くにいるようだ。
すぐ目の前には青く光る石碑のようなものがあり、目をやると「セーブしますか?」の文字が表示される。私は「はい」と頷き、正面の階段を下りるとおそらく現れるであろうボス戦に備えて、しっかり装備を整えた。

さあ、いざ戦闘だ!
敵は3体。得意の炎魔法で両サイドの2体は難なく倒せたが真ん中はかなり手強い…!こちらの炎攻撃があまり効いていない気がする。そのくせ向こうの攻撃のダメージはかなり痛い…。くっ、こんなことなら前の村でもっと強い防具を買っておくんだった!

さあどうやって倒そうかーー

ん?ふと、下の方に目をやる。
戦闘に夢中でまったく気が付かなかったが、私の視界の下端には時間が立つにつれてちょっとずつ進むバーが固定されている。さらに右下にはなにやら四角いボタンのようなものがあり、そこにはこう書かれていた。

「夢広告をスキップ」

鳴り響くスマホのアラームで目を覚ます。

今日は木曜日。
週末まであと2日あるけれど、仕事終わりや土日の「楽しみ」のことを考えると、私は今日もまた頑張れる気がする。

aso