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三分小説#02|懸賞男の一生

ああ美味い。最高だ。

平日の真っ昼間、録画していた映画を見ながら酒を飲む。映画は見ているんだか見ていないんだか分からないが、まあそれはさして大した問題ではない。

俺は世に言うところの所謂フリーターだが、そこらのフリーターとはいくらか違う。
朝起きてまずやるのは、スマートフォンで懸賞サイトを開いて新着のキャンペーンに片っ端から応募すること。これが欲しいとかこれは要らないとか、そんなことは二の次。できるだけ頭を使わず無心でとにかく数を応募する、これが懸賞をやる上で一番コスパがいい、言わば攻略法なのだ。

いま飲んでいる大吟醸、それからこの比内地鶏の炭火焼き鳥ももちろん懸賞で当たった。なんなら家具や家電も半分くらいは懸賞の景品でもらったものだ。おかげで生活費はかなり抑えられていて、月に数日の日雇いをする程度で十分生きていける。だからこうして、ストレスの全くない、それでいて程よく贅沢な生活ができるわけだ。

そんな貧乏くさい生活、と馬鹿にされることもあるが、誰にどう言われようとも俺にとっては十分贅沢と言える人生だ。贅沢の価値観なんて、他人が口を出すものじゃない。

ああ、だいぶいい気分になってきた。
なみなみ2杯目の冷酒をぐいっと飲み干し、俺はソファに横になった。

ピンポーン。
映画はとっくに終わり、夕まぐれの静けさに響く呼び鈴で目を覚ます。

寝ぼけながらも駆け足で玄関に向かうと、まあ、案の定といったところだが宅配だ。
雑なサインと配達員への雑な感謝をして小包を受け取り、俺は部屋に戻る。

いやあ、それにしても気持ちの良い睡眠だった。一足遅れて昼寝の余韻に浸りながら、届いた小包を開ける。
発送元は見慣れない食品会社、いつかの懸賞の景品だろう。手当り次第に応募していると、どの会社の何に応募したかなどいちいち覚えてはいられない。

さて梱包が開いた。
しかし入っていたのは、缶詰が1つ。

…。
こういう類は10個セットとか、良いものなら1ヶ月分とか、それくらいが相場なのだが。まあこういうこともあるだろう。
少々期待はずれではあるが、ぐっすりと寝てちょうど小腹が空いていたところだ、こいつをツマミにもう1杯といこう。

さっそく缶詰の蓋を開け、箸でひとつまみを口に運ぶ。

お。
甘さの中の苦みが絶妙に良いアクセントになっている。
これはこれは、酒が進む。

……..!!

どうした、急に苦しい!
吐きそうだ、目眩もする。

救急を呼ぼうにも体が思うように動かない。
誰か、助けを!

朦朧とする中で、1枚の紙切れが目に入る。


「特賞当選おめでとうございます。缶詰一生分をお送りします。」

俺の意識は、ぷつんとそこで途絶えた。

aso