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三分小説#03|歳をとる

「それじゃあ私はそろそろ帰ろうかな、お大事にね」 「うん、来てくれてありがとう」 「あ、そうだ!ちょっと早いけど、誕生日おめでとう!」 そう言って病室を出ていった彼女はハル。 歳は俺の2つ下の17歳だ。 幼少の頃家が近所だったこともあってよく一緒に学校に通ったりする仲だったが、お互いに段々と惹かれ合って、俺が中学を卒業する日に告白したんだったっけか。それから今日に至るまでずっと一緒にいるというわけ […]
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万有飲料

そろそろ起きなくてはいけないのだけれど、どうにもベッドがそれを許さない。背中とお尻とふくらはぎ、それから両腕と後頭部にべったりとくっついたマットレスが、とんでもない強さで私を引っ張っている。 万有引力の法則というものがあるらしい。質量を持つものどうしはなんでも引っ張り合っていて、そして重ければ重いほど強く引っ張るというのだ。 なるほど、合点がいった。 寝る前にはさほど感じなかったベッドの引力が、朝 […]
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ひらがなでなくひと

「泣いてるの?」 「ううん泣いてない、目にゴミが入っただけ」 「さっき涙ぬぐったであろう右手に“かなしいかなしいかなしい”って書いてあるけど」 「ごめん嘘、かなしいなぐさめて」   Title:ひらがなでなくひと Artist:あそ(aso) Date:2021.07.13
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三分小説#02|懸賞男の一生

ああ美味い。最高だ。 平日の真っ昼間、録画していた映画を見ながら酒を飲む。映画は見ているんだか見ていないんだか分からないが、まあそれはさして大した問題ではない。 俺は世に言うところの所謂フリーターだが、そこらのフリーターとはいくらか違う。 朝起きてまずやるのは、スマートフォンで懸賞サイトを開いて新着のキャンペーンに片っ端から応募すること。これが欲しいとかこれは要らないとか、そんなことは二の次。でき […]
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生きる広告枠

人間生きてるといろんな人に影響を与えますし、与えられます。 それならいっそ、1人の人間の人生をまるまる広告枠として買い取って広告にしてしまうって発想もありかもしれません。 頑張って一生懸命一生懸命生きてきたと思っていたけど実は自分の人生は広告にすぎなくて、お葬式の最後に流れる「……の人生は…….の提供でお送りしました」のアナウンスで生涯の幕を […]
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体温がない

世の中には熱い物もあれば冷たい物もありますし、温かい場所、涼しい場所があります。 ついなんとなく世界をサーモグラフィーのように捉えて、当然のように温かい空気もあれば涼しい空気もあるものだなと思ってしまったりするのですが、「温かい」とか「涼しい」とかそういう感覚は皮膚の細胞が感知した刺激から脳が生み出したものであり、もし仮に生物という概念自体が無ければ、この世界には温かいも涼 […]
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次世代スマート電話

いつでも、どこからでも、あなたの好きなときに電話がかけられるスマートなデバイスが登場! 使い方は簡単。硬貨またはテレホンカードを投入し、「ツー」という発信音のあとに電話番号をダイヤルするだけ。 さあ、そこからは2人の時間。心ゆくまで通話を楽しみましょう! ※硬貨とテレホンカードの併用はできません。 ※100円玉はお釣りが出ません。 Title:次世代スマート電話 Art […]
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月曜日をスキップ

音楽をスキップするくらいの軽い気持ちで時間をスキップできたら、平日をポンポン飛ばして毎日休日で人生ハッピー!って一瞬思ったのですが、スキップした月曜日から金曜日を自分がしっかり真面目に人様に迷惑かけることなく過ごしてると言い切れるほど、自分のことも人間という生き物のことも信用できていないので、スキップするのはやっぱりやめておきます。   Title:月曜日をスキップ artist:あそ( […]
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生前の名前が書かれたプレートと一緒に運ばれてくるメインディッシュ

お待たせいたしました。こちらがメインディッシュの『ダニエルのヒレステーキ』になります。 生前のダニエルは子牛の頃からほんとうに食欲旺盛で、餌をあげるといつもあっという間に平らげてしまうんですよ、大好物の干し草ならなおさらでした。それはもう美味しそうに食べてくれるものですから、こちらも餌のあげがいがあるってものでしたよ。 たくさん食べるだけあって牛一倍大きく成長しま […]
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七夕重課金ユーザー

七夕になると色んなお願い事が書かれた短冊をあちらこちらで見かけますけど、七夕のお願い事ってもともとは織物が上手な織姫様にあやかって自分も何か頑張って上達するぞ、成し遂げるぞ、って誓うものです。 なので、 「痩せますように!」 「単位が取れますように!」 などとお願いされた織姫様は 「そんな、私に言われましても…」 と毎年毎年困り果てている訳です。 しかも織姫様に […]
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